2018年にOculus Go(オキュラス・ゴー)が発売されました。Oculus Goはパソコンやスマートフォンを必要とせず、単体でVR(バーチャルリアリティ、仮想現実)が楽しめるスタンドアロン型VR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)です。価格も当時は23,800円からと比較的安価なため、日本でも購入者が増えこれまでと比べ一気にVR環境が広がりました。
VR環境の普及に伴い、ウェブコンテンツにおいてもVR対応へのニーズが増えています。ウェブブラウザにはWebXR Device APIが策定されており、これを使用することでブラウザでもVR体験が可能です。
※以前はWebXR APIではなく、WebVR APIという仕様がありました。WebVR APIの策定はv1.1で停止しています。VR以外にもAR(拡張現実)やMR(複合現実)といったXR(◯◯現実)を総合的に扱うWebXR Device APIに統合されました。
最新のThree.jsであれば、既存のThree.jsコンテンツをWebXRに対応するのは驚くほど簡単です。スクリプトを4行変更するだけですべてのWebXR処理をThree.js内で完結してくれます。デモを作成したのでご覧ください。
※この記事のソースコードは2023年3月時点のThree.js(r150)によって書かれています
Three.jsのVRコンテンツ化の方法は、公式のドキュメントは『How to create VR content – three.js docs』(英語)でも解説されています。
Three.jsでのVRの対応方法
まずは通常通りThree.jsコンテンツを作成しましょう。本記事ではThree.js自体の説明は割愛しますが、基本的な使い方はICS MEDIAのThree.js入門サイトで学べます。作成したThree.jsコンテンツに対し、以下の変更を加えてVRに対応します。
1. XRを有効にする
最初に、Three.jsのレンダラー(THREE.WebGLRenderer
)に対してWebXRが有効になるようフラグを設定します。
// レンダラーのWebVR設定を有効にする
renderer.xr.enabled = true;
2.アニメーションのループを設定する
次に、レンダラーに対して毎フレーム実行されるループ関数を登録します。
// レンダラーにループ関数を登録
renderer.setAnimationLoop(tick);
通常は毎フレーム実行するループ関数をWindow
オブジェクトのrequestAnimationFrame()
メソッドに設定します。一方、WebXRではHMDデバイスに対応したXRSession
オブジェクトのrequestAnimationFrame()
メソッドに対して設定する必要があります。ループ関数をThree.jsのレンダラーのsetAnimationLoop()
メソッドに登録することで、表示状態に応じてThree.jsがこの2つを適切にスイッチしてくれます。Window
オブジェクトに設定したrequestAnimationFrame()
メソッドは削除してください。
以上でThree.jsのVR対応は完了です。追加で下記の対応を行います。
3. VRの判定、開始ボタンを表示する
VRの表示は、クリックやタップなどのユーザー操作を起点としてのみ開始できます。VRコンテンツにはこのためのUIが必要となります。また、WebXR Device APIに対応した環境かどうかの判定も必要です。
この2つの機能を実現できるVRButtonというヘルパーがThree.jsのサンプルとして提供されています。VRButton.jsをimport
文で取り込み、VRButton.createButton()
メソッドでボタン要素を作成し、DOMに追加します。
// VRの判定、遷移ボタンのスクリプト
// three/addons/ エイリアスはESMのimportmapで定義しています。詳しくはHTMLソースを確認ください。
import { VRButton } from "three/addons/webxr/VRButton.js";
// ・・・(省略)・・・
// WebVRの開始ボタンをDOMに追加
document.body.appendChild(VRButton.createButton(renderer));
VRを表示できる環境の場合は「ENTER VR」ボタンが表示され、クリックするとVRの表示を開始できるようになります。
4.ポリフィルを追加する
Immersive Web Developer HomeにてWebVR APIに対応しているブラウザを確認できます。より多くのユーザーに体験してもらうためにWebXR Device APIのポリフィルを使用しましょう。
webxr-polyfillを読み込み、スクリプト冒頭でnew WebXRPolyfill()
と記述すればポリフィルを適用できます。
// WebXRのポリフィルを読み込み
// webxr-polyfill エイリアスはESMのimportmapで定義しています。詳しくはHTMLソースを確認ください。
import WebXRPolyfill from "webxr-polyfill";
// ポリフィルを使用
const polyfill = new WebXRPolyfill();
以上の4ステップでThree.jsのコンテンツをVR対応できました。3D空間内を見回すだけのコンテンツであれば簡単に対応できることがわかります。
開発TIPS
Three.jsの既存コンテンツをVR対応する上で注意するポイントを紹介します。
指定したcanvas以外の要素は表示されない
WebXR Device APIはcanvas
要素をHMDに表示する機能です。そのため、指定したcanvas以外のcanvas要素や他のDOM要素は画面に表示されません。VRに2次元のUIなどを表示したい場合はThree.jsと同じcanvasレイヤーに描画する必要があります。たとえば、dat.GUI for VRを使えばThree.js空間上にUIを表示できます。
カメラのFOVに注意
Three.jsのカメラ(THREE.PerspectiveCamera
)に設定したFOV(画角)値はVR表示時には無視され、HMDデバイスのFOV値が使用されます。極端なFOV値でコンテンツを作成すると、PCで表示したときとVR HMDで表示した時の差が大きくなり、意図しない見た目になることがあります。最初からカメラのFOV値を90°くらいで作っておきましょう。
カメラ座標を変更したい場合
Three.jsでカメラを動かすときはcamera
のposition
プロパティを使いますが、VRではcamera
のposition
プロパティは無視されます。この方法では座標の変更ができません。
// VRではカメラの座標を変更できない
// camera.position.x = 100;
代わりに、カメラ用の空コンテナーを作り、カメラではなくコンテナーに対して座標を設定します。カメラ用コンテナーをscene
に追加することも忘れないでください。
// カメラ用のコンテナを作成
const cameraContainer = new THREE.Object3D();
// カメラをコンテナに追加
cameraContainer.add(camera);
// カメラ用コンテナをsceneに追加
scene.add(cameraContainer);
// コンテナに対して座標を設定することでカメラの座標を変更可能
cameraContainer.position.x = 100;
※ カメラを動かす場合は、ユーザーがVR酔いしないよう充分に注意してください
動作確認に便利な拡張機能
Chromeの拡張機能『Immersive Web Developer Home』を使うと、WebXRのエミュレートを行えます。使い方は以下の通りです。
- 拡張機能をインストールする
- VRコンテンツのページを開く
- デベロッパーツールを開く
- [XR]タブを開く
- ブラウザをリロードする
- ページ内のコンテンツでVRを開始する(例: [Enter VR]ボタンを押す)
- デベロッパーツール内のヘッドセットをドラッグして、視点を回転する
終わりに
Oculus Goの登場でVR環境の普及が加速し、その波はウェブ業界にも押し寄せてきています。Three.jsを使えば簡単にVR対応できるので、みなさんのウェブコンテンツもぜひVRで表示してみませんか? HMDをかぶって自分で作成した3Dコンテンツ内に入り込んだときの感動はひとしおです。
ICS MEDIAではThree.jsの入門サイトを公開しています。まだThree.jsをさわったことがない方もこの機会にチャレンジしてみましょう。
※この記事が公開されたのは6年前ですが、1年前の2023年3月に内容をメンテナンスしています。