文章の折り返し指定のCSS最新版

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文章の折り返しはウェブ制作において意外と難しいものです。URLが文章に含まれている場合、URLがレイアウトを突き抜けてしまった、という経験をみなさんはお持ちではないでしょうか? この記事では、国内のウェブ制作において「開発者が考えることが少なくてよくなる」安全なCSS指定を紹介します。

結論から説明すると、以下の指定を提案します。

body {
  overflow-wrap: anywhere; /* 収まらない場合に折り返す */
  word-break: normal; /* 単語の分割はデフォルトに依存 */
  line-break: strict; /* 禁則処理を厳格に適用 */
}

この記事では上記の指定にいたった理由と、折り返しの理解について必要なoverflow-wrapword-breakプロパティを中心に解説します。

overflow-wrap

overflow-wrap文字列が長すぎて行ボックス内に収まらない場合に、折り返しするかどうかを指定するプロパティです。指定できる値は次の3種類です。

  • normal : 単語と単語の間など、可能な場所でのみ折り返します(初期値)
  • break-word: 単語の途中で折り返します
  • anywhere: break-wordと同様に単語の途中で折り返します(違いは後述)

記法

.任意のセレクター {
  overflow-wrap: anywhere;
}

表示結果は次の通りです。左から順番にnormalbreak-wordanywhereを指定しています。

①と②の箇所を注目しましょう。長い英単語としてURL文字列を例にしました。ブラウザのデフォルトのoverflow-wrap: normalの場合は、①のようにレイアウトから突き抜けてしまいます。

②の箇所はFlexboxを使ってレイアウトした箇所です。overflow-wrap: break-wordでは突き抜けていますが、overflow-wrap: anywhereでは突き抜けていないことがわかります。

break-wordanywhereは似ていますが、上記のようにCSSでFlexboxを使用した場合などで違いがあります。詳しい説明は記事『Webブラウザの日本語改行問題 -改行を実現するHTML/CSS-(1) #JavaScript - Qiita』を参考にしてください。

ブラウザの対応状況

overflow-wrap: anywhereは、Chrome 80・Edge 80(2020年)、Firefox 65(2019年)、Safari 15.4(2022年)以降でサポートされています。

コラム:word-wrapとの違い

word-wrapプロパティは過去にInternet Explorer向けに開発されたもので、現在はoverflow-wrapという名前に改名されています(互換性のためにword-wrapは残されています)。新規のウェブサイトを作成する際には、overflow-wrapを使用しましょう。

word-break

word-breakは、文章内の単語がどの位置で折り返されるかを制御するプロパティです。

  • normal : 単語は慣例にしたがって分割されます(初期値)
  • break-all : 単語内でも折り返しを行います
  • keep-all : 単語内での折り返しは行われません

記法

.任意のセレクター {
  word-break: normal;
}

表示結果は次の通りです。左から順にnormalbreak-allkeep-allを指定しています。

①〜③の違いに注目しましょう。

  • ①:URLにおいて、normalkeep-allが突き抜けていますが、break-allでは折り返しています。
  • ②:break-allだとほとんどの英単語の途中で折り返しています。これだと英文を読むのが難しくなります。
  • ③:keep-allだと、和文で突き抜けが発生しています。和文においては句点や読点のみで折り返す指定となるためです。

このように、break-allkeep-allどちらも扱いに注意が必要です。用途によっては役立つ場合はありますが、汎用的に使うには無理がありそうです。そのため、この記事ではword-breakは初期値のnormalが無難として採用しています。

コラム:word-break: break-wordは非推奨

読者のなかにはword-break: break-wordを使っている人もいるかもしれません。overflow-wrap: anywhereについて説明しましたが、word-break: break-wordは同じ結果をもたらします。レイアウトを維持し、どうしても行に収まらない場合にのみ英単語の途中で折り返します

ただし、word-break: break-word非推奨のプロパティとされています(根拠:CSS Text Module Level 3)。そのため、現在ではブラウザ環境が許すならoverflow-wrap: anywhereを使いましょう。

line-break

line-breakは文章の禁則処理を指定できるプロパティです。

禁則処理とは、カギ括弧や句点、読点、子音など、行頭での表記が望ましくない文字を制御することです。小学校や中学校で原稿用紙で学んだ文章のルール、というとわかりやすいでしょうか。

line-breakプロパティには次の値を指定できます。

  • auto: 規定の折り返し規則(初期値)
  • anywhere: どこでも折り返しを行う
  • loose: もっとも制限の弱い規則
  • normal: 一般的な折り返しの規則
  • strict: もっとも制限の強い規則

記法

.任意のセレクター {
  line-break: strict;
}

表示結果は次の通りです。左から順にautoanywherestrictを指定しています。

違いが明確なのは「やぁ、元気かい?」の部分です。カギ括弧と子音と読点を含めているため、行頭に出現する文字が変化しています。line-break: strictでは、行頭に読点と子音は禁止されているため、行頭に出現しません。

デモを試して、どのような違いがあるのか確認してみてください。次の図版はブラウザの幅をすこし変更して、異なる折り返し位置での表示結果を確認したものです。

strictがもっとも禁則処理が強いことがわかると思います。

※ブラウザによっては折り返し位置は少し異なる結果で表示される場合があります(ChromeとFirefoxだと子音の扱いが異なりました)。

紙面の文章では禁則処理が用いられていることが多いため、ウェブサイトにおいても読み物として禁則処理を適用することは自然なことと考えられます。禁則処理をすれば、読み間違いを防ぐ効果も期待できます。

しかし、ウェブサイトでの禁則処理があまり普及していないのも現状です(指定可能なことが知られていないと考えられます)。現在のブラウザでは十分サポートされているので、CSSの文章表現としては検討したいところです。

ブラウザのサポート状況は次の通りです。line-break: strictは2020年頃のChrome 83、Edge 83、Firefox 72、Safari 13.1以降でサポートされています。

hyphens

hyphensプロパティは、自動的に単語の途中でハイフネーション(単語の分割)を行う指定です。lang属性を指定して、ハイフネーションの言語を指定できます。

  • none: ハイフネーションを行わない
  • auto: ブラウザが自動的にハイフネーションを行う
  • manual: 分割候補位置が指定された場合のみハイフネーションを行う(初期値)

記法

.任意のセレクター {
  hyphens: auto;
}

表示結果は次の通りです。

hyphens: autoの場合は、折り返しの場所でハイフン「-」が挿入されています。

hyphens: autoはChrome 88(2021年)、Safari 5.1(2011年)、Firefox 6(2011年)以降でサポートされています。

使い分け

ブラウザでの初期値は、overflow-wrap: normalword-break: normalline-break: autoです。先述のとおり、長いURLや長い英単語が含まれている場合にレイアウトが維持できないリスクがあります。ユーザーが入力したテキストを表示するようなウェブサービスでは、長い英単語が含まれない可能性はゼロとは言えません。

上記の理由から、折り返しの安全性が高い、overflow-wrap: anywhereword-break: normalを基本として、禁則処理の温度感によってline-break: strictの指定を使用することをオススメします。

使い方としてはbodyセレクターにグローバルに適用し、必要に応じて局所的に異なるword-breakoverflow-wrapを指定するほうが、HTML制作としては考えることが少なくなりオススメです。

body {
  overflow-wrap: anywhere; /* 収まらない場合に折り返す */
  word-break: normal; /* 単語の分割はデフォルトに依存 */
  line-break: strict; /* 禁則処理を厳格に適用 */
}

/* 例 */
.例外的に適用する箇所 {
  word-break: break-all; /* 単語の途中でも折り返しOK */
}

まとめ

今回の記事では、文末における折り返しの指定について解説しました。まとめると以下の使い分けになります。

採用したい指定

  • overflow-wrap: anywhere : 収まらない場合に折り返す指定
  • word-break: normal : 規定の折り返しの規則。
    ブラウザの規定値なので、指定しなくてもよい
  • line-break: strict : 禁則処理はお好みで。
    厳格指定にすると行頭の読みやすさが改善する

今後は使わない指定

  • word-wrapプロパティは使わない。
    使いたいならoverflow-wrapプロパティを使う
  • word-break: break-wordは非推奨

続編記事『CSSで文節の折り返しを! br・wbrとauto-phraseの活用術』は、文章の意図的な折り返し指定について詳しく説明します。

池田 泰延

ICS代表。筑波大学 非常勤講師。ICS MEDIA編集長。個人実験サイト「ClockMaker Labs」のようなビジュアルプログラミングとUIデザインが得意分野です。

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