[GDC2018] リアルタイムパーティクルエフェクトミドルウェア「PopcornFX」は次期バージョンでどう進化するか?

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3月19日~23日、カリフォルニア州サンフランシスコでゲーム開発者向けイベント「Game Developers Conference 2018」が開催されました。筆者も現地に赴き、初日から5日間さまざまなセッションを受講してきました。

3月21日のセッション「Realtime VFX: Designing Practical and Efficient Simulation Node Graphs」で、Persistant Studios社によってPopcornFXの次期バージョン最新情報が紹介されました。その内容をダイジェストで紹介します。このセッションではノード編集型の新しいエフェクトエディターや、内部エンジン最適化のこだわりが披露されました。

PopcornFxとは

PopcornFXとはパリとモントリオールに拠点を置くPersistant Studios社が提供するリアルタイム3Dグラフィックスのソフトウェアです。スクリプトで制御可能なパーティクルエディターなどがあり、数十万規模のパーティクルエフェクトでも性能を落とすことなく作成できます。ゲーム開発、映像制作、AR/VR/MR、ライブショーなどで幅広く利用されています。
※ICS MEDIAでも「ヴィジュアルプログラマー必見。PopcornFxによる花火エフェクトの作成」にて取り上げています。

次期バージョンのアイデア

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Substance DesignerHoudiniUnreal EngineのBlueprintなど、他社ノード製エディターの編集画面。これらツールからインスピレーションを受けて、PopcornFXでも新しいノード編集型のエフェクトエディターを開発中です。

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PopcornFXを単純にノード編集型に置き換えると左図の概念図となります。PopcornFXでは、パーティクルのライフサイクル毎に、下記のフェーズにわけて振る舞いを定義していく必要があり、左図のままだと直感的に制作しづらい。

  • Spawn:生成時の処理
  • Evolve:毎フレームの処理
  • Render:描画の処理

右図のように1つのノードに統合し、より直感的に扱えるように工夫しました。

エフェクト実装例と内部処理

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簡単なパーティクルエフェクトの実装例。青が生成時の処理、赤は毎フレーム時の処理。オレンジは描画処理です。

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ノードを実行リスト順に縦に並べ、さらにフレーム毎の様子を横軸に置いたイメージ図。2フレーム目以降では、Spawn(初期化処理)が不要のため、Evolve(毎フレームの処理)とRender(描画処理)のみの処理となります。

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データをメモリに保持するタイミングを工夫し最適化を施しました。ここでのデータとは、頂点位置や移動速度など、毎フレーム変化するパーティクルの情報を指します。PopcornFXではGPUを利用した演算の高速化をはかっているため、メモリへのアクセスがパフォーマンス最適化の鍵となります。※後に詳しく解説あり

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フレーム毎の処理イメージ図。描画処理に移る前に必要な値をメモリに保持します(Store)。

Layer Graph

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「Layer Graph」機能により、エフェクトを構成するパーティクルの種別毎にノードをわけて制作できます。ノードの内部実装を意識せずに、高レベルでのエフェクトの構造を可視化する機能です。

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少し複雑なエフェクトの実装例。「Layer Graph」を使うと、エフェクトの構造をシンプルに捉えて試行錯誤しやすい。

直線補間と曲線補間

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低フレームレート時でも滑らかなパーティクル曲線を描く機能。曲線補間(cubic)、直線補間(linear)を備えます。原理は、毎フレーム時のパーティクル移動開始点、終了点での移動ベクトル(接線)を計算し、低フレームレートでも描画は1回としながら、高フレームレート時と同様の計算処理を行います。エフェクトの品質を大きく向上させる工夫と言えます。

最適化

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このようなノードエフェクトをコンパイルしたところ、

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330回もの命令処理となりましたが(写真左)、以後解説する最適化処理により、69回に圧縮することができました(写真右)。

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コンパイルパイプラインの全体図。以下4つのステージがあります。本稿では詳細な解説を割愛しますが、概要としては下記の処理となります。

  1. Event frontend:エフェクトの全体構造(Eventgraph)をチェックするステージ
  2. Data frontend:エフェクトの詳細ノード(Datagraph)とスクリプト(Scripts)から、AST(Abstract Syntax Tree)を生成するステージ
  3. IR:ASTからIR(中間言語)を生成するステージ。この段階でコンパイラーによりさまざまな最適化が行われます。
  4. Backend:IRからネイティブ言語(機械語)に変換するステージ

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中間言語の最適化一例。重複したコードを削除しています。「load storage_123」という処理が重複しているため、削除されました。

最適化の結果

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4つのエフェクトで最適化前後の命令数の変化を表した図(グラフが小さい方が命令数が少なくパフォーマンスが高い)。オレンジ色のバーが最適化前、緑は命令数最適化、青はメモリ読み書き最適化を表します。いずれも3倍以上の性能向上となっています。

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最適化前後でのシミュレーション時間の変化を表した図(グラフが小さい方が高速)。いずれのエフェクトでも命令数最適化によりシミュレーション時間が変化していることがわかります。メモリ読み書き最適化の影響は少ない。

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最適化前後でのメモリサイズの変化を表した図(グラフが小さい方がメモリ量が少ない)。メモリ読み書き最適化によりメモリサイズを縮小できることがわかります。

おわりに

リードプログラマーのJulien Bilalte氏とプログラマーのRomeo Incardona氏にお話を伺いました。Persistant Studiosでは10数名のプログラマーがツール開発に従事されています。今回使われているコンパイル最適化の多くは、一般的なC++コンパイラーで使われている手法とのこと。次期バージョンは2018年中には公開予定だそうです。

編集部

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